何度も会いに行く
また会いに来るよ
別れる度にそう約束する
彼女は彼女なりの笑顔で頷く
その繊細な仕草が感情を揺さぶる
彼女が手を振る姿を背中に感じる
もう無理かもしれないと思う
僕には手に負えないという諦観
それでも時間が経てばまた会いに行きたいと思う
会いに行かなければならないと切実に感じる
それを何回か繰り返してきた
今回は様子が違う
彼女が変わったのかもしれないしそれは僕の方なのかもしれない
確かにあれから時間は過ぎていく一方だ
久しぶりと軽めの挨拶を交わしてからいろいろ話をする
最近はどうしているだとか音楽や小説の話など
お互いに、特に彼女の方から立て続けに聞いてくる
会話の内容はかなり限定される
何かの話のきっかけが毒になって彼女を傷つけてしまう
湖に張った厚い氷がやがて訪れる春の息吹によってひびが入ってしまうように
それだけは避けなくてはならない
彼女の強めの姿勢がそれを無意識に要求してくる
体の周りにバリアを張っているような
しばらく一人になりたいと言う
少し話し疲れたのかもしれない
僕はその間外に出て軽く散歩をする
緑の多い場所で風光明媚だ
都会からは離れた場所で電車を乗り継いでやって来た
彼女が毎日吸っている空気を僕も吸っていると思う
大きく深呼吸して空を見上げる
彼女も空を見上げるだろうか
同じ空を見上げているのだと言っても聞いてもらえないだろう
そんなセリフでは足りないんだと思う
後ろを振り返ると建物の窓から彼女が手を振っている
僕も振り返す
ロミオとジュリエットのワンシーンのような
少し駆け足になりながら部屋に戻る
あれから時間は過ぎる一方だ
そろそろ変化が必要なのかもしれない
一種の覚悟のようなものが
そして僕は彼女を抱きしめるべきだろうか